クッシング症候群とはどのような病気か?
クッシング症候群とは、腎臓の内側にある副腎からコルチゾール(副腎皮質ホルモン)というホルモンが分泌され続けてしまう・過剰に分泌されてしまう病気のこと。コルチゾールが分泌され続けると他の臓器に悪い影響を与えます。詳細については本記事で解説しています。
クッシング症候群の余命は?治療可能?
クッシング症候群の余命は、あくまで目安ですが平均して約2年半といわれます。しかしその子の年齢やクッシング症候群にかかった原因・治療具合などによっても異なります。クッシング症候群の初期であれば、投薬をしながら通常の生活を送ることも可能。しかしクッシング症候群に気づいたときすでに病状が進行していれば、亡くなってしまうこともあります。進行具合によって治療方法が異なるため、本記事を参考に治療を進めてください。
犬のクッシング症候群の原因
クッシング症候群の症状や治療方法などを正しく理解するには、まずは発症する原因を知っておくことが大切です。犬のクッシング症候群の原因は、以下の3つです。
- 脳下垂体に腫瘍があり「コルチゾールを分泌しろ」と指令をし続ける
- 副腎に腫瘍があり、コルチゾールを分泌し続ける
- 他の病気で長期間飲んでいるステロイド薬
ひとつずつ解説します。
原因1. 脳下垂体に腫瘍があり「コルチゾールを分泌しろ」と指令をし続ける
犬のクッシング症候群の約90%が、この脳下垂体の腫瘍が原因で起きています。
まずはコルチゾールが発生するまでの仕組みを簡単に解説しましょう。コルチゾールは主に、次のようなメカニズムで作られます。
①「脳下垂体」という部位が、コルチゾールの発生を促進させるホルモンを分泌する
②そのホルモンが「副腎」というところに届くと、コルチゾールが分泌される
③十分なコルチゾールが分泌されると「副腎」が「脳下垂体」に向けて「①をSTOPせよ」と指令を出す
④指令を受け取った「脳下垂体」は①をSTOPする
本来はこの①~④が正しく機能しているため、コルチゾールの分泌量は正常に保たれています。
しかし脳下垂体に腫瘍ができると、③で出したSTOPの指令を脳下垂体がうまくキャッチできません。そしてコルチゾールが十分に足りているのに、①を続けてしまいます。その結果コルチゾールが過剰分泌されてしまうのです。
原因2. 副腎に腫瘍があり、コルチゾールを分泌し続ける
犬のクッシング症候群の約10%は、副腎腫瘍が原因で起きています。
上記メカニズムで説明すると、副腎に腫瘍ができた結果、②が自動的に続けられてしまいます。①は正常に機能しているにもかかわらず、コルチゾールそのものが分泌され続けるのです。
原因3. 他の病気の治療に、長期間ステロイド薬を飲んでいる
皮膚疾患などで長期間ステロイド薬を飲んでいると、その副作用としてクッシング症候群を引き起こすことも。このように投薬が原因のクッシング症候群を「医原性クッシング症候群」と呼びます。
※原因1.2は「自然発生クッシング症候群」といいます。
原因1.2では働きが強く出すぎてしまうため起きていました。それに対し3の医原性クッシング症候群ではむしろ副腎の機能が低下して起きており、原因の本質は異なると考えられます。
クッシング症候群になりやすいのは、日本で人気の犬種が多い
クッシング症候群になりやすいといわれる犬種は、下記の通りです。
- ダックスフンド
- プードル
- ポメラニアン
- ビーグル
など
日本で人気の犬種も多く含まれています。とはいえ6歳以上の犬であれば上記以外でも発症するリスクがあるため、注意が必要。またメスの方が発症しやすいといわれています。
犬のクッシング症候群でよく見られる症状は?初期症状から末期症状まで解説
犬のクッシング症候群は、進行具合によって症状が変わります。
そこで初期症状・中期症状・末期症状に分けて解説します。愛犬の症状と見比べて、進行具合を確認してみてくださいね。
犬のクッシング症候群:初期症状
クッシング症候群の代表的な初期症状は、以下の3つです。
- 水をたくさん飲む
- おしっこをたくさん出す
- 食欲が増す
クッシング症候群の初期では水をよく飲み、その分おしっこもたくさんします。また食欲が増してよく食べる場合もあるでしょう。おしっこの色も薄くなるため、よく確認してください。
初期の段階では、なかなか病気と認識するのは難しいのが現状です。また糖尿病の症状にも似ているので、両者を見分けるのは困難でしょう。
そのため上記の症状が続いている場合は、一度動物病院で診察してもらってください。
犬のクッシング症候群:中期症状
クッシング症候群が進行し始めると、以下のような症状が表れます。
- 皮膚が薄くなる
- 左右対称の脱毛
- 皮膚が黒っぽくなる
- おなかがパンパンに膨れる
- 足腰が弱くなる
- 元気がなくなり、よく眠るようになる
中期になるとクッシング症候群特有の皮膚症状が出てきます。具体的には左右同じ箇所の脱毛が始まり、皮膚が黒ずみ薄くなっていくでしょう。
またお腹だけが風船のように膨らむのも特徴で、脱毛と腹部の膨らみは犬のクッシング症候群の半数以上に見られます。
犬のクッシング症候群:末期症状
クッシング症候群の末期になると、他の病気も誘発しやすくなります。末期にかかりやすい病気や症状は以下の通りです。
- 尿路疾患
- 肺炎
- 糖尿病
- 膵炎(すいえん)
- 腫瘍の転移
- 呼吸が荒くなる
- 高血圧
- 肝臓の肥大
- 脳障害(回る・視覚障害・てんかん・まひ)
- 血管障害による突然死
コルチゾールの分泌が続くと、身体の中の臓器が徐々に悪化していきます。免疫も落ち、今までかからなかった尿路感染や肺炎などの病気もかかりやすくなるでしょう。
下垂体や副腎の腫瘍が悪性の場合、他の場所に転移することも考えられます。また脳下垂体の腫瘍が大きくなればクルクル回り始めたり発作を起こしたりと、脳障害に発展する危険性もあるでしょう。
末期症状で挙げた病名を見て分かる通り、他の病気を併発するとクッシング症候群だけでなく併発した病気(糖尿病や肺炎・尿路疾患など)の治療も必要になります。また血管内に血の塊が詰まり突然亡くなってしまうこともあります。
できるだけ初期症状の段階で受診し、治療を行いましょう。
犬のクッシング症候群は治るのか?原因別に治療法を解説
犬のクッシング症候群が完治できるかどうかは、病状の進行具合と原因によって変わります。原因に合わせた治療方法を理解して、愛犬の今後のお世話や看護の心構えをしておきましょう。
【脳下垂体の腫瘍が原因の場合】延命治療がメイン!亡くなるまで費用がかかる
原因1で解説した「脳下垂体腫瘍」が原因のクッシング症候群の場合、治療方法は延命治療がメインとなります。
副腎からコルチゾールの分泌をブロックする薬を、1日1~2回与えることが一般的です。動物病院によって取り扱いが異なりますが、トリロスタンかケトコナゾールという薬を投薬することになるでしょう。
また投薬する量も症状によりさまざま。定期的にホルモン量を計測する血液検査を行いながら、体に最適な薬の用量を見つけます。また飲み始めて14日後には再検査をし、用量に問題がないかの確認も必要です。その後も1~3カ月に1回程度、定期的な検査をしながら投薬を続けることになるでしょう。
その他にも併発している病気がないか、確認が必要です。エコー(超音波)検査や尿検査、通常の血液検査で腎臓や肝臓などの数値を確認し、総合的に体の状態をチェックしなければいけません。治療や検査には多くの費用がかかるでしょう。
動物病院は人間の病院と違い自由診療のため、病院によって費用形態も大きく異なります。1カ月あたりの概算を下記の表にまとめたので、参考にしてみてください。
【1カ月あたりの治療費用相場】
検査や薬 | 価格 |
ホルモンを計測する検査 | 7,000~15,000円 |
血液検査 | 3,000~10,000円 |
エコー検査 | 2,000~5,000円 |
尿検査 | 1,000~3,000円 |
薬 | 200~1,200円/日、6,000~36,000円/月 |
合計 | 19,000~69,000円
(検査がない月は薬代のみ) |
※あくまで目安です。
薬の量は体重によっても変わるため、大型犬になるほど費用が高額になります。
費用が心配な方は、動物病院の受付で確認するのがおすすめ。大体の概算を教えてくれます。また延命治療となるので、亡くなる日まで治療が続くことを忘れないようにしましょう。
【副腎性の場合】手術と投薬が必要!完治する可能性もある
副腎腫瘍が原因のクッシング症候群は、手術がメインの治療となるでしょう。副腎腫瘍の手術が成功し、良性腫瘍だった場合は完治が可能です。
とはいえ腫瘍の大きさによっては手術ができないこともあり、手術自体も技術的に非常に難しい内容です。また手術が困難なときや副腎を全て取らなければいけないときは、脳下垂体性のクッシング症候群と同じく薬でのコントロールをしなければなりません。
手術の術前検査から始まり、入院・手術・点滴・術後検査・投薬などを含めれば200,000~300,000円はかかります。また術後はホルモンが乱れるので6カ月程度、薬によるホルモンコントロールが必要です。
検査だけでなく投薬をすることになるため、その後も毎月数万円はかかると認識しておきましょう。
【ステロイド薬が原因の場合】様子を見ながら投薬を中止する!完治できる可能性が高い
薬剤が原因でクッシング症候群になっている場合は、ステロイド投薬をやめると回復することがほとんどです。
しかしステロイドを止めれば、治療中の病気が悪化する可能性もあります。必ず動物病院で今後の治療方法を相談しながら進めましょう。
犬のクッシング症候群は治療しないとどうなる?
クッシング症候群は、治療をしないと徐々に病状が悪化していきます。脳下垂体のクッシング症候群の場合、治療した犬も含めて平均で余命は2年半とされています。
治療をしない場合、余命はさらに短くなることが予想されるでしょう。より長く愛犬と過ごすためにも延命治療も視野に入れておいてください。
また治療をしないでいると糖尿病や肺炎・脳障害なども起きやすくなり、突然死などのリスクも高くなります。さらに下垂体の腫瘍が大きくなると認知症のような症状も1~2年ほどで見られることがあるため、介護が必要になる可能性も。
延命治療は医療費も莫大(ばくだい)になります。愛犬と飼い主にとって何が一番最適なのか、しっかり動物病院で相談しましょう。
コメント